「非モテ」が晒される性的視線(2)

 前回の記事に対して幾つかコメントを戴きましたが、その多くは私の主張に否定的なものでした。今回はコメントへの返答・反論を含め、問題を再度整理してみることにします。

 まずはMasao氏のコメントから。電車男の話は色々と込み入っているので、詳しい話は次回に譲ります。

非モテ(というよりも男性全般が)「欲望されることへの恐怖」に鈍感なのは、そもそも男性には、性的視線を恐怖する必要がないからです。理由は大野さんが言う「レイプ」や「望まない妊娠」への危険性が男性には存在しないという、生物学的・身体能力的なものです。よく「電車で痴漢に襲われたら女性は怖がるが、痴女に襲われたら男性は喜ぶ」といいますが、まさにコレですね。
(中略)
男性が女性に対して感じる恐怖というものは、性的・暴力的なものではなく、男性の持つ女性への欲望を「弱み」として逆手に取られ、性欲を餌にいいように扱われ、搾取されることへの恐怖でしょう。「電波男」や「喪男道」では、「俺たちキモメンは、女に惚れても(電車男のように)、いいように搾取されるだけだ」ということが繰り返し語られています。
(Masao氏のコメントより)

 こういうパターンの「恐怖」が男性固有のものである、という想定は理解に苦しみます。一般に男性よりも社会的に弱い立場に置かれやすい女性が、男性から「弱みを餌にいいように扱われ、搾取される」ことを恐怖するのは決して珍しくないでしょう。両者の違いとしてMasao氏が挙げているものは実質「性欲」だけです。
 もちろん、男性の性欲と女性の性欲を全く同様に語るわけにはいきませんが、男性の性欲を過度に重大視(または女性の性欲を過小視)するのは危険です。何度も言っていることですが、こういう話をする際には「性欲」と「性的承認の欲望」を分けて考えるべきなんです(以前のこの記事のコメント欄を参照)
 「痴女に襲われたら男性は喜ぶ」という想定に至っては論外です。女性に比べれば数は少ないものの、男性の性的被害というものは現実に存在しており、このサイトの記述によれば男性被害者の17%は女性の加害者によるものです。

 そもそも、「女性からの性的視線」が何の恐怖でもないのなら、本田透氏や喪男の人達はどうしてあれほど「護身」に拘るんでしょうか? 前回も述べましたが、「性的視線」とは欲望的なものに限りません。喪男の人達の多くは、女性から「性的にマイナス価値」のラベリングをされていると感じているからこそ、その視線に恐怖するんです。「護身」とは突き詰めれば、他者(ここでは異性)からの性的視線の方向性をコントロールしたい、という願望に他なりません。

 ここは大野氏も誤解されている点でした。

女の「欲望されることの恐怖」とは、つきつめればレイプされる恐怖です。「懸想」されるのが嫌だというのは、そういうことです。 男は女を力でレイプできる存在だと女は認識しています。もちろん女が集団で一人の男を陵辱するということは稀にあるでしょうが、一対一の場合(多対一は当然)、圧倒的に「される」のは女です。モテであろうと非モテであろうと変わりません。仮に「痴女」が男を力でねじ伏せても、男が「こんな女じゃ勃たねえよ」((c)内田春菊)と思ったらおしまいです。
(大野氏のコメントより)

 「非モテ」のコミュニティがあくまで「Web上のもの」であることに注意してください。原則匿名が前提のWebコミュニティでは、自分から住所などを晒したり、オフ会で会ったりしない限り、実際に性的な暴力を受ける可能性はほぼありません。しかし、にも関わらず「性的視線」を受けるのが厭だという人は大勢います。それが何故か?を考えるべきでしょう。

 これは、次のような比較をすれば分かりやすいかもしれません。「男性に容貌について貶され、差別されている女性」は、「男性に性的に欲望され、いやがらせを受けている女性」よりもレイプされる可能性は低いでしょう。だからといって、「前者は後者に比べて心的苦痛が軽い」と主張する人がいたとしたら、明らかにどうかしています。両者はいずれも「性的視線」を介した暴力であり、見かけの方向性が異なるだけだからです。
 すなわち、「レイプされる危険性」があるか否かに関わらず、「性的視線」はそれだけで恐怖の対象たり得るんです。もちろん「レイプの危険」を感じることで恐怖は増幅されますが、それが無ければ恐怖を感じられないわけでは全くないんです。

 「性的視線による苦しみ」の性質や程度に男性と女性の間で違いがある、ということを否定するつもりはありません。そもそも、苦しみや痛みを客観的に計ることが出来ない以上、「同じものだ」などと言えるはずがありません。
 しかし、それらがいずれも「性的視線によるもの」であるという事実は押えておく必要があります。「男性は性的視線を向けられることに恐怖を感じない」というMasao氏や草実スサ氏の主張は、非モテ男性の苦しみを却って矮小化しているようにすら思えます。

 言及し切れていない問題も幾つかありますが、今回は気力が尽きたのでここまで。非モテ女性の参入障壁の話など、残りの話題は次回以降に譲ります。